パッシブデザインと温熱性能

陽だまりの暖かさと自然に吹く風は、誰もがとても気持ちがいいと感じます。
「エアコンがあまり好きではなく、自然の心地よさが好き」。そんな住まい手に合っているかもしれません。
太陽の光や暖かさ、風といった、住まいの周りにある自然の「心地よさ」を積極的に住まいに取り込んでいく手法をパッシブデザインと言います。陽だまりの日向ぼっこや、夏の日陰を通る風の心地よさを取り入れながら、一年を通じて心地よい住まいにしていくことです。一年を通じて陽の光が入り込み、季節の良い時期は窓を開ければ心地よい風が部屋に入り、夏は木陰の涼しさを、冬は日向ぼっこの心地よさが感じられる住まいです。
それは、一昔前の建物にヒントがあります。昔の建物は設備機械に頼ることができず気候や風土に合わせざるを得ないため、建築的な工夫を常に重ねながら作られてきました。
よく考えてみると、今の家づくりにおける「心地よさ」はエアコンや換気、照明といった設備機械がつくりだしていることに気がつきます。けれど、陽だまりの心地よさとは大きく異なることにも気がつきます。太陽や風とうまく付き合うことで、住まいに自然にある光や風、暖かさに包まれた「本来の心地よさ」をもたらすことができるようになります。

基準性能 HEAT20 G2(外皮平均熱貫流率(UA値0.46)熱損失係数(Q値1.6)冷房期平均日射熱取得率(ηA値2.8))
パッシブデザイン:自然エネルギーの利用と調節
自然エネルギーは利用するだけではなく、いかに調節するかがポイントになります。
太陽の光や暖かさ、風を四季に応じて建物に取り込んだり、遮断したりしていくかが重要になります。
自立循環型住宅の手法を取り入れています。
平成13年度から国交省技術政策総合研究所と国立研究開発法人建築研究所により進められてきた「自立循環型住宅開発プロジェクト」。その研究成果としてまとめられた「設計ガイドライン」を元に、住まいの設計にパッシブデザインを活かしていく方法です。パッシブデザインを活かすために、日射や卓越風向といった地域特有の気象データを集め、分析しながら設計にフィードバックしています。

1.綿密な計画と住まい手が見つけだす「調整力」……性能を定量化して計画に反映させることから

「断熱」「明るさ」「日差し」「風通し」等が大事ということは分かっていても、「どこまで工夫すれば、どれだけの効果が期待できるか」うまく想像できません。日照のシミュレーションや風向きの気象データ、断熱性能や夏季日射遮蔽などを定量化しながら、設計に反映させること。そして、パッシブデザインの特徴は、自然の心地よさを「閉じたり、開いたり」しながら調整できる仕組みを建築的に作っていくことが重要になります。
自然の心地よさを「調整する力」を備えた住まい。
住まい手が暮らしながら、自分たちの心地よさを見つけていくことです。

2.断熱は「冬暖かく」の基本…温暖な地域だからこそ極めて重要

室内を「冬暖かく」する上で、断熱は極めて重要になります。断熱性能を上げていくと、暖まった室内の熱を外部に逃がさなくなり、暖房している部屋としていない部屋の温度差も小さくなります。一昔前は「静岡は暖かいから断熱なんてそんなに気にしなくても…」なんて話もありましたが、実は逆。「暖かい地域だからこそ断熱をしっかり施しておく」と、エアコン程度の暖房で家全体を暖かくすることが可能になります。

熱損失係数Q値(熱の逃げやすさ)を1.9W/㎡k以下になる断熱性能を持つ住まいは、外気温8℃(静岡では1月頃)の晴れた日、日当たりの良い部屋は20℃、日の当たらない部屋でも15℃程度にすることができます。寒い日でも寒さを気にせず家じゅう動き回れることは、住まいをコンパクトに作り効果的に活用する暮らし方にもつながります。

次の図が断熱性能と各部屋の温度の関係を分かりやすく示してくれています。
赤の点線で囲った図が目標としている断熱性能で、熱損失係数Q値(熱の逃げやすさ)で示すと1.9W/㎡K位になります。

晴れた日の昼間で外気温が8℃、静岡では1月頃。
暖房しなくても日当たりの良い部屋の室温は20℃以上になり、日の当たらない部屋でも熱が外に逃げにくいので15℃以上になります。

同じ日の夜で外気温が5℃。
暖房している部屋が20℃の時、暖房していない部屋でも熱が逃げにくいので、17℃位に保つことができます。
各部屋の温度差も小さくなり、全ての部屋を暖房している全館暖房に近い状態になっていきます。
ヒートショックも起こりにくくなります。

3.日射遮蔽は「夏涼しく」の基本…夏の住まいが暑くなる最大の要因は日射(日差し)

夏の外気温や湿度の影響もありますが、住まいが暑くなる最大の要因は日射です。建物に当たった日射は、屋根や外壁を伝わり、窓からは直接室内に入ってきます。中でも窓から入り込む熱量は全体の3/4ともいわれています。
「夏の日差しを室内に入れないこと」は、夏を涼しく過ごすための基本になるものです。
夏の日差しは「閉じる」、涼しい風には「開く」。あるいは夏の日差しは「閉じる」、冬の日差しには「開く」。この「閉じたり、開いたり」ができること、調整力を建築的に備えることがポイントになります。そしてこの調整力は断熱同様、設備機器のようなランニングコストがかからず省エネです。

4.自然の風をつかまえる……風通しがよく、空気の入れ替えができる

「風をつかまえる」楽しい発想ではないでしょうか。
風は気まぐれと思われるかもしれませんが、海と山がある静岡では、昼間は海からの海風、夜は山からの山風が吹きます。朝と夕は無風になる凪(なぎ)。一定の傾向があります。その場所の風の特徴を捉えます。
海と山を結んだラインが風の道になります。建物に風の道を平面的に、立体的に通し、「閉じたり、開いたり」できる仕組みを細かく計画していきます。

5.太陽の光を室内に取り込む……多彩な光を室内に導く

気象データやCADソフト、google等を使って、計画地の季節や時間による太陽の動きを正確に把握することができるようになりました。窓から取り込む「採光」、取り込む光りの量や強さ、雰囲気をコントロールする「調光」、取り込んだ光りを奥まで導く「導光」。これらの方法を組み合わせながら、部屋ごとに心地よい明るさを計画していくことができます。
一方、建築的な工夫で太陽の光を、明るく元気な光、落ち着いた静かな光、柔らかく包まれるような光など、多彩な光に変えて室内に導くことができます。

6.太陽の暖かさを暖房に利用する……そして快適な輻射(冷)暖房

全国的にみても日照に恵まれた静岡。積極的に活用していきたいものです。
太陽光発電のような「熱→電気→暖房熱」に変える複雑な仕組みではなく、「熱→暖房熱」として利用するとてもシンプルな手法。パッシブソーラーとも言われ、太陽の熱を集熱して、逃がさないように断熱性を高め、昼間蓄えた熱を夜間にも利用していく方法です。
そしておすすめしたいのが輻射(冷)暖房。日向ぼっこの「ぽかぽか感」や、真夏にトンネルに入った時に感じる「ひんやり感」が「輻射」。熱が暖かい方から寒い方に移動する現象で、エアコンのように空気を媒体として熱が伝わる「対流・伝導」とは異なる現象。パッシブソーラーは心地よい輻射暖房です。

7.省エネルギーとCO2排出削減……小さなエネルギーで本来の心地よさをもたらす

身近な自然の心地よさを建築に取り入れていくパッシブデザインは、同時にエネルギー消費量や二酸化炭素排出量を減らすことになります。自然のエネルギーを利用するのですから、当たり前といえば当たり前。設備機械のようにランニングコストもかかりませんし、10年程度の機械寿命もありません。建物のあり方を工夫することで、小さなエネルギーで快適に暮らせる家が実現できるということです。
自然にある光や風や暖かさに包まれた本来の心地よさをもたらしながら、言い古された言葉ですが、環境にもお財布にも優しい手法です。

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